「天道さんと雨野君って、普段何喋ってるんですか?」
ある日のゲーム部にて。一時休憩に入ったボクは、天道さんに何気なく訊ねた。
彼女は少し考えてから返してくる。
「互いの好きなところとか」
「おっと一口目にして胃もたれが……」
早速げんなりして、その場を去ろうとするボク。
が、天道さんに「お待ちなさいな」と袖を掴まれた。
「雨野君のどこが素敵かと言うとですね」
「聞いてませんけど!」
「まず声ですよね」
「うぅ、お腹一杯だよぅ……」
滂沱の涙を流すボク。が、そんなボクに対して彼女は懇々と続ける。
「彼の澄んだ優しい声ときたら、まるでエイトビットサウンド」
「それ褒めてます?」
「彼の愛らしいビジュアルはドット絵を彷彿とさせます」
「貶してますよね?」
「とんでもない。要は私にとって彼は最早レトロゲーみたいなもの、ということです」
「相変わらず褒め言葉に聞こえない!」
「ちなみに彼側は私のことをよく『VR』で喩えます」
「格差! なんか表現に格差ありませんか、そこ!」
「ここで一つ言っておきたいのは、雨野君は私の中で既に……全てのRPGを超えている、ということです」
「安い宣伝文句みたいなの来た!」
「雨野君の中の私もまた、全てのホラーゲームを超えているらしいです」
「恐れられてますよねぇ!?」
「そんな雨野君は、ゲームキャラで喩えるなら……愚直な最初の雑魚敵ですね!」
「今のは確実に貶しましたよねぇ!」
「ちなみに彼は私のことを勇者やラスボスに喩えがちです」
「格差!」
いよいよツッコミ疲れて、がっくりと肩を落とすボク。
と、天道さんが、優しい笑顔で……締めくくるように、告げて来る。
「つまり、彼との会話は、いつも楽しい、ということです」
「そうですか。……良かったですね」
「ええ」
……うん。二人は、本当にお似合いなカップルのようだ。
いい空気の中、ボクは天道さんに微笑むと、彼女に背を向け、その場を離れようと……したところで、再び袖を掴まれた。
「さて、雨野君の魅力の続きですが」
「…………え」
この日以降、ゲーム部で天道さんに彼氏の話題を振る者は消えた。